これまで100台以上のレーシングシミュレーターを製作してきたKMR Racingが、シミュレーター構築における「シート選びのポイント」と「失敗しない設置のコツ」を徹底解説します。シミュレーターの導入やアップグレードを検討している方は、ぜひ参考にしてください。

1. シート選びの重要性。シミュレーターの「姿勢」を決めるパーツ
「シミュレーターにシートなんて何でもいいのでは?」と感じる方は少なくありません。しかし実際には、シートはドライバーの姿勢・力の入り方・操作精度を決定づける最重要パーツです。
第1回フレーム編でも触れたとおり、体をどれだけしっかり支えられるか・体にどう合わせるかでシミュレーターの完成度は大きく変わります。
シミュレーターのドライビングポジション出しのポイント

剛性と体の支えが「車両の剛性感」を決める
シミュレーター内の車両特性と、フレーム・シートの剛性は密接に関係しています。剛性の高いレーシングカーに乗るなら、フレームもシートも剛性が高いほど、ハンドル入力に対するフィードバックが正確に返ってきます。
逆に柔らかいシートに乗ると、振動がゆっくりと大きな動きで伝わり、「車両自体が柔らかい/緩い」印象になります。ドライバーの感覚で、どちらがシミュレーター内の車のイメージに合うかでどれぐらいの剛性が必要なのかが変わってきます。
ブレーキ踏力を「腰で受ける」
ブレーキタッチが硬く、踏力が強いほど、踏力を腰でしっかり受け止められるかが重要になります。シートが柔らかすぎたり剛性が足りなかったりすると、踏力で体が浮いたりシートが撓んだりして、「どれくらいの力で踏んでいるか」が分かりにくくなります。実車で良いシートはシミュレーターでも良いシート、という結論に行き着くのはこのためです。
2. シートの種類と選び方
KMRでは複数メーカー・複数タイプのシートを取り扱い、実際に座り比べながら最適な1脚を提案しています。参考に、いくつかの特徴を紹介します。
RECARO RMS(カーボン/グラスファイバー)

- 非常に高い剛性。強くブレーキを踏んでもシート自体が変形する感触はほぼなし
- ハンドル操作時にもシート自体がねじれにくい
- 長時間乗っても疲れにくい(体格が合っている場合)
- 肩のサポートはステアリングのFFBを繊細に受けるための支えとして有効
硬めのシートのためポジションや体格が合っていないつらさを感じることもありますが、標準的な日本人体格にしっかり合う、完成度の高い1脚です。
RECARO RSS

- クッション性が高いのに腰回りがしっかりホールドされる感覚
- FRPモデルだが、腰回りのホールドはRMSより「包み込まれる」印象が強い
- 腰の後ろのクッションが踏力に応じて程よく潰れ、踏力の強弱が伝わりやすい
- 肩回りの剛性も高く、横Gやしなりに強い
ただし腰回りの寸法がややきつめです。購入前に必ず店舗で座って確認することをおすすめします。腰回りが広い「ラージサイズ」もラインナップされているので、体格によってはそちらが合う場合もあります。
BRIDE ジータ4

BRIDEのフルバケットシートは、体の形にピッタリ合う人にとっては長時間乗っても疲れにくい選択肢です。一方で、シートの形状が自分の腰の反り方と合わないと、長時間乗った時に腰へ負担がかかることがあります。(全てのシートに言える事)
重要なのは、短時間の試座だけで判断しないこと。シートの評価は、体の慣れ+ポジションの適正化の両方が整って初めて正確にできるものだからです。
KMR自身、過去にシートをBRIDE→RECAROに変えた直後は1〜2ヶ月腰痛に悩まされたものの、ポジションを見直し+体が馴染んだ後は何時間乗っても腰が痛くならなくなった、という経験があります。
腰痛持ちの方でも、自分に合ったシートとポジションを見つければ長時間快適に座れる環境を作れる可能性が高いです。諦めずに探し続けてほしいポイントです。
セミバケット/リクライニングシート

- 純正車に近い形状、角度調整が可能
- ホールド性より汎用性・快適性を優先
- 体格の異なる複数人で共用する用途に最適
- タイムを詰めたい用途では上半身が動きやすく、精度面では不利
家族・仲間と共用するシミュレーターや、普段使いの快適性を重視する方向けの選択肢です。
KMRオリジナル フォーミュラシート(AZ Racingベース)

シェル部分はAZ Racing製、サイドプレートとスペーサーをKMRオリジナルで製作しています。純正サイドプレートの剛性不足・調整幅の狭さを解決するための改良を加えています。
(コチラで販売しています https://racingsim-kmr.com/onlineshop/product/formula-seat/ )
KMRオリジナル改良点
- サイドプレート:厚みを増し、剛性と調整幅を拡大。KMRロゴ入り
- スペーサー(中のカラー):板厚を増やし、シート横方向の調整幅を拡大
フォーミュラシート導入時の注意点
- モニターに目を真っすぐ向けたいが、フォーミュラ形状は体が寝るためモニターが自然と上寄りになる。人に合わせた作り込みが前提
- ペダルは必ず高い位置に設置する必要がある。座面と同じ高さだとペダルを踏んだ時に体が浮き上がり、本来の「踏力を体で受ける」感覚が得られない
- ペダル高さ・モニター高さを自由に調整できるフレームでないと、シート本来の性能が発揮できない
実際にフォーミュラカーに乗る(乗りたい)選手から、「シミュレーターでも同じ感覚で乗りたい」という要望が非常に多く、KMRでも正式に取り扱っています。
【番外編】チャイルドシート(フルバケット/ジュニアタイプ)

- ベースシートの上に重ねて装着できる子ども用シート
- ペダルスライダーと併用することで、身長約120cmから1台のシミュレーターで対応可能
- 親子で同じシミュレーターを共用したい家庭に最適
- 市販のジュニアシートでも、ベースシートに載せられるものなら流用可能
汎用フルバケットシート(コストパフォーマンス重視)

- ノーブランドの低価格フルバケットシート
- 価格はブランド品と比べて大幅に安い
- ただし腰回りの剛性がやや低く、強くブレーキを踏むとシート面が撓む
- 肩・腰のホールド性はブランド品に劣る
「まずはシミュレーターを始めたい」という方には十分な選択肢。その後、より高い精度で乗りたくなったらRECARO等にステップアップするのが王道のルートです。
3. 設置の基本と失敗しないポイント
どれだけ良いシートを選んでも、設置の仕方が間違っていれば性能は発揮されません。全てのシートに共通する設置の基本ポイントを整理します。
ドライビングポジションについて再度確認
- 背中と腰がシートにピタッとついている
- 太ももの裏は膝側で少し隙間ができるくらい。ブレーキを強く踏んでも、太ももの裏がクッションに干渉せずストロークできる状態
- ブレーキを踏み込んだ力で体が浮かず、腰でしっかり受け止められる
- ハンドルを操作しても背中が離れない
この設置が決まって初めて、シートやフレームの「性能差」が効いてきます。
ペダル高さとシート角度の関係
ペダルを真っすぐ押した時に、踏力が腰のあたりで受け止められる角度になっていることが重要です。シートの形状によって、ベストなペダル高さ・ペダルプレート角度は変わります。これらをシート形状に合わせて調整できるフレームであることが、シート性能を引き出す大前提です。
短時間試座だけで評価しない
前述のとおり、シートの本当の適合性は「体の慣れ+適正ポジション」の両方が揃って初めて分かります。最初の1〜2ヶ月で違和感があっても、ポジションを見直して体が馴染むと何時間乗っても疲れなくなる、というケースは珍しくありません。自分に合う1脚を見つけるまで、諦めずに探し続けてください。
4.まとめ
シートはシミュレーターの完成度を左右する重要なパーツです。記事のポイントを整理します。
- シミュレーター用だからとシートを軽視しない。実車で良いシートはシミュレーターでも良い
- 短時間試座で判断しない。体の慣れと適正ポジションの両方が揃ってから評価する
- ペダル高さ・シート角度・フレームの調整自由度とセットで考える。高級シートでも設置が合わなければ性能は出ない
シミュレーターを実車の練習に活かしたい方は、実車と同じような力の入り方になる環境を作ることを意識してみてください。
KMRでは、100台以上のシミュレーター製作実績と1,000時間以上のレッスン実績をもとに、用途・体格・目的に合わせた最適なシミュレーター構成をご提案しています。シミュレーター制作のご相談は、下記からお気軽にどうぞ。


5.参考動画
この記事の内容は、以下のYouTube動画でも詳しく解説しています。実際にシートに座り比べながら紹介していますので、ぜひ動画もチェックしてください。


